予測された国賓より、もっとも注目されたのは江沢民がよたよたと現れ、習近平の隣に並んだことだった。これには驚いた人が多い。
対立しているとされた胡錦涛も雛壇に登場し、病気欠席が予測された李鵬もでてきた。この長老たちの勢揃いこそ、中国共産党が一番みせたかった演出ではないのか。
すなわち血みどろの権力闘争は、いったん休戦状態にある、という宣伝効果が得られるからだ。
習近平は演説で「中国は覇を唱えず、軍を30万人削減し、永遠に拡張もしない」などと大嘘を平然と嘯いた。
もし覇権をとなえないのなら、南シナ海の軍事拠点構築をどう説明するのか、軍を削減しても武装警察が増えるだけの目くらまし戦術にも一切の言及が無く、しかも9月3日の軍事パレードは今後毎年続けると言いはなった。
「強い中国」の演出は習政権がスローガンとする「中国夢」の実現であり、軍事パレードをともかく挙行できたことは、習近平が軍を掌握したということを内外に示したかったわけで、しかし実態はと言えば反対の様相が強い。
軍を掌握したと誇張できる背景は稀薄である。
第一に西側が総スカンを示した。日本ばかりか欧米英にくわえてスリランカ、ケニアなどが欠席し、またAIIBに参加を表明した57ケ国のうち、30ヶ国の代表しか出席しなかったことが挙げられる。外交的には失敗といえるかも知れない。
第二に「抗日戦争勝利」というスローガンのインチキが世界に知れ渡ったことだ。抗日戦争を戦った主体は国民党であり、中国共産党には、「勝利」をいう合法性がないと米国のニューヨークタイムズまでもが厳しく批判し、台湾でも一部政治家や老兵の参加に激しい非難の声が巻き起こった。
したがって習近平の演説では、この部分を曖昧にぼかして表現した。
第三に初公開の兵器が85%、その全てが国産と自慢する中国の武器システムだが、米国東海岸へ届くというDF31,DF5のパレードが行われても、おそらく展示用の囮ミサイルか、サンプル(中味は空砲)であり、「張り子の虎」ぶりはかわらない。北京五輪のときの口パク少女を思い出せばよい。
第四に習近平の「強い中国」の自己演出は、かえって周辺諸国に驚異をあたえ、これからの中国の進出プロジェクトへの不信感はますます増大すると予想されることだ。
上海株式暴落、人民元切り下げ、天津大爆発など一連の不祥事が折り重なって中国のイメージ悪化が避けられないという皮肉な結果となった。