【北京=矢板明夫】中国の習近平国家主席は24日、4泊5日の英国訪問を終えて帰国した。同日付の中国各紙は「中英の蜜月関係を築いた旅」「中英の黄金時代はこれから始まる」などと習主席の外遊の成果を高く評価する記事を大きく掲載した。しかし、北京の外交関係者の間では「多額な投資を約束するなど英国に多くの実利を与えたが、中国には見返りが少ない」といった冷ややかな声が出ているほか、インターネット上では「ばらまき外交しかできないのか」といった批判も上がっている。
中国メディアは、習主席が103発の祝砲で迎えられたことや英国議会で演説したこと、それにキャメロン首相と友人のようにパブでビールを飲んだことを“大きな成果”と強調した。
中国はここ数年、南シナ海の領有権問題や歴史認識などをめぐり、東南アジア諸国や日本との対立が先鋭化し、強引な海洋進出姿勢と人権問題などで米国から厳しい批判を受けるなど、外交環境が悪化している。習主席は今回、英国との親密ぶりを演出することで「中国は孤立していない」と国民にアピールする思惑があったと指摘される。
しかし、習主席とキャメロン首相との会談で、原子力発電所や高速鉄道の建設協力など総額400億ポンド(約7兆4千億円)におよぶ大型商談について合意したものの、英国で建設する原発に中国側が投資するなどの計画は、英国の経済にはプラスだが、中国経済に直ちに貢献する分野は少ないとみられている。
ネット上には「人道上の理由でアフリカなどの貧困国に投資するのなら理解できるが、先進国の英国を私たちはなぜ助けるのか、納得がいかない」といった批判の声も寄せられている。
20日夜、習主席夫妻はエリザベス女王がバッキンガム宮殿で主催する公式歓迎晩餐(ばんさん)会に招待された。中国メディアは「異例の手厚いもてなし」などと絶賛したのに対し、ネット上では「われわれの血税を何百億ポンド分も使ってバッキンガム食堂の食券を買った」といった習主席をからかう書き込みもあった。
中国国内では最近、景気が低迷しており、各都市で企業の倒産が続き、失業した農民工も急増している。「体面を守るためにばらまく金があるのなら国内の景気浮上に使ってほしい」といった、習政権の外交姿勢を批判する声が中国国内で高まりつつある。