もし戴相龍(元人民銀行総裁、前天津市長)が次の標的だとしたら
中国金融界の恐怖、上海株式市場は突然瓦解の懼れ
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異常である。
上海株式市場の暴騰ぶりは、普通の資本主義市場では起こりえない。西側の資本主義の下、市場経済の原理原則からは想定できない事態が起きているからである。
なにしろ僅か二年間で三倍に跳ね上がったのだ。
2013年6月24日、上海株価は1849・65
2015年6月10日、上海株価は5164・16
日本のマスコミで流されている「アナリスト」たちの、まことしやかな「分析」によれば、上海の株価暴騰の原因は次の通り。
第一に中国にはまだ機関投資家が育っていない。
第二にそれゆえ個人投資家が主役である。
第三に外国の投資家が直接参入できない。
これらが裏面で意味することはインサイダー取引が横行する実態の示唆である。また海外から流入しているホットマネーに関して触れた分析がほとんどないのも奇妙だ。
げんに筆者は何十回となく中国で証券会社の窓口に遭遇すれば、中を見学してきた。朝から証券会社のロビィに群がって株価ボードに見入っている庶民からは、日本のように、「この会社の収益率は?」「この会社の一株あたりリの利益率は、どれくらいですか?」などという質問はない。いや、もしあっても窓口の証券会社社員は答えられない。
風聞が主体で「あの会社は共産党幹部の誰々の娘がやっている」「この会社には習近平主席が二回も視察した」などと、いかにも中国らしい「評価」のもとに、株価が乱高下する。
おそらくインサイダー取引の黒幕は党に直結し、濡れ手に粟のファンドが株価操作のオペレーションを裏で展開しているだろう、と推定される。
暴落の暗雲が立ちこめてきた。
銀行の不良債権は誤魔化されている。地方政府の融資平台への融資総額360兆円にのぼる。理財商品は240兆円ほど流通している。いずれも償還の時期を迎えている。中央銀行としては、準備率引き下げを7回もおこない、もう出動する政策余地はない。
不動産相場は暴落気配で氷のように凍結され、企業の余剰設備投資に資金回収がままならない。
各地で社債デフォルトが横行しており、企業の倒産もあとを絶たない。つまり中国の金融界は未曾有の危機に直面しているのだ。
▲「周永康のあとの大物は戴相龍だ」という風聞が流れている
ここに戴相龍一族の大スキャンダルが浮上したのだ。
戴相龍は元人民銀行総裁(つまり中央銀行総裁)である。天津市長に転進し、海を埋め立てる天津新工業地区プロジェクトを立ち上げ、日本企業などの大量誘致に成功した。そのうえ、天津を旧日本租界が金融界であったように、上海と肩を並べる金融街にすると意気込んできた。
すべてがこけそうである。
女婿の東峰(別名=戴蓉)が他の太子党仲間や怪しげな出入り商人等と投資会社を設立し、海南島にじゃかすかとリゾートマンション、豪華ホテルを建てた。スキャンダルの発端は、この投資会社の焦げ付きだった。
「鼎和創業投資」とかいう、東峰が設立した投資企業は民生銀行から六億元の融資を受けた。この金で「開通証券」の株式を五万株取得した。
以後、かれは英領バージン諸島のダミー企業を通じて、香港株を盛んに売買し、14億元を得たとされるが詳細は不明。
2015年二月、民生銀行頭取だった毛暁峰が拘束された。つついて北京銀行グループ「京能集団」の元会長・陸海軍が、五月に華夏銀行副頭取の王耀庭が拘束された。そして6月2日、戴相龍の女婿、東峰が拘束され、取り調べを受けていることが判明した。翌日、上海株価が大幅に下落した。
周永康にしても、最初は息子の逮捕だった。温家宝のスキャンダルも、夫人と息子の不正蓄財、いま李鵬一族が追い詰められ始めたのも、不肖の息子ふたりと娘、つまり太子党の悪評さくさくの「紅二代」。これを「権貴資本家」という。
時期的にいえば、郭文貴、令完成らの米国逃亡があり、かれらの機密文書持ち逃げは、馬健や李友らの逮捕から派生したものだ。
そして五月末に王岐山が米国へ飛ぶ手はずだった。ところがJPモルガンの醜聞の筆頭に王岐山を米国が指名したので、訪米どころではなくなった。
戴相龍一族に捜査のメスがはいったことは、中国金融界をがらがらと大きく震撼させている。
つぎに出るのは大虎、それとも子羊?