日本人の娯楽観
1.働きバチの暇つぶし
第二次世界大戦前の日本人は、祭りや湯治、芝居や寄席などの地域社会に結び付いた伝統的な娯楽を楽しんでいた。だが、大戦後の生活文化のアメリカ化、農村から都市への移住、テレビの発達などが、伝統的娯楽を衰退させた。その中で、高度経済成長を支えた勤労者層は、「働きバチ」と呼ばれるように仕事一筋に生き、余暇時間を自己充実のためでなく、明日の仕事のための疲労回復やストレス解消のためと考えるようになった。娯楽もテレビを見てゴロ寝をするとか、盛り場で一杯飲むとか、同僚とマージャンをするなど、手軽で内容の乏しいものが一般的となった。中でも、日本独特の大衆娯楽パチンコは、いつでも一人で遊べて、運がよければ景品稼ぎもできる、もっとも人気のある暇つぶし法だった。スポーツではゴルフが挙げられるが、これもあくまで仕事がらみが多かった。
2.娯楽観の変化
昭和40年代以降、日本人のレジャーに対する考え方は変化を見せ始め、余暇を仕事の余り時間とするのではなく、もっと積極的な意味で考えるようになった。
その一つが、成長率が大きく低下した昭和50年代前半に典型的だった生活向上型、あるいは自己投資型とでも呼ぶべき余暇利用法である。余暇を生活の資源として有効に使おうというもので、自分の教養を高めるための読書・学習や日曜大工のようなDIY(do it-yourself)活動、スポーツでも健康づくりのためのジョギング、水泳など盛んに行なわれるようになった。そして、安定成長時代に入った昭和50年代後半からは、若い世代を中心に余暇そのものにより高度な楽しみを求める傾向が強くなり、バブル経済期にピークに達した。高級レストランで豪華な食事を楽しんだり、国内旅行よりも海外旅行に出かけるというぐあいに、楽しみには投資を惜しまないと考えるようになった。近年のバブル崩壊後は、自然志向のレジャーにも人気が集まるようになったが、一方では国内旅行より格安の海外旅行には依然として人気が集まっているなど、娯楽はいっそう多様化してきている。
なお、こうした娯楽観の変化とは関係がないが、パチンコは依然として人気が高く、また、近年老若を問わずに圧倒的に人気があるのが、音楽だけ入ったテープやCDなどに合わせて歌うカラオケである。もともとは盛り場のバーやスナックなどだけにあったカラオケセットだが、今では家庭にまで普及し、さらに世界に広まりつつある。